「あ」
ふ、と口をついた言葉は晩夏の香りがする風に吹かれて消えた。
地上の星が瞬き始めた時刻。
バルドルは自分の誕生日がとうに過ぎていたことを思い出した。
忘れていたら忘れていたで、特に後悔も無く覚えていたらいたで特に感慨も無い日だった。
多少の贅沢はする気になったろうが。
「あーま、いっか」
どうせ思い出したのなら、と帰路を変え繁華街に足を向けた。
酒より情報の何時もの店ではなく、情報より酒の味で店を選ぶ。
久しぶりに押すドアには変わらないベルが下がっていた。
「ブラッディメアリ」
鮮血の女王の名を冠するカクテルは、何よりも自分の祝い事に似合う気がした。
ただ、一言。
心の中で呟く。
乾杯
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